先日、私の掘り出し物コレクションの中から、夏の風情を愉しむための一着をご紹介しました。新潟の爽やかな空気感を伝える小千谷縮の記事とは別に、「涼を纏う、大人の麻着物」として綴った、シワクチャの保存状態が悪かった着物が。。
あの記事を公開した後、織物や仕立てに大変造詣の深いプロの方(嫁の和裁の先生)に、この着物を実際に見ていただく機会がありました。そこで思いがけない新事実が判明したのです。
私が上質な一品だと思ってはいたけど手触りの良いただの麻着物だと思い込んでいたあの濃紺の着物は……なんと、麻織物の最高峰であり、国の重要無形文化財にも指定されている沖縄県宮古島の伝統工芸品、「宮古上布(みやこじょうふ)」だったのです。
今回は、この美しい誤算を機に、知れば知るほど愛おしさが深まる宮古上布の正体と、その尽きない魅力について静かに語ってみたいと思います。
宮古島の太陽と、手技が織り成す「奇跡の布」

「東の越後上布、西の宮古上布」と並び称され、日本三大上布の一つに数えられる宮古上布。目の肥えた着物好きなら誰もが、一度は身に纏うことを夢見る最高級の夏衣です。
南国・沖縄の宮古島に降り注ぐ強烈な太陽(ティダ)と、豊かな自然。その環境の中で、現代の効率主義とは対極にある、気の遠くなるような手作業を経てこの布は生まれます。
まず、原料となるのは島に自生する「苧麻(ちょま)」という植物。その茎の皮から、アワビの貝殻などを使って丁寧に繊維を削り出します。それを熟練の職人が爪先で極細に裂き、指先で結び目を作らずに繋ぎ合わせて、ようやく1本の細い糸にするのです。
その後、島で発酵させて建てられた琉球藍を用い、ミリ単位の手作業で緻密に絣(かすり)を合わせながら織り上げられます。
仕上げには、織り上がった布に糊をつけ、重い木槌で何時間も叩き続ける「砧打ち(きぬたうち)」を行います。この工程によって、麻とは思えないほどの滑らかさと、まるで蝋(ロウ)を引いたような、しっとりとした独特の光沢(ブザ)が宿るのです。
「大人の麻着物」として私が惚れ込んでいた、あの吸い込まれそうな深い色合いと上品な艶の正体は、まさに宮古島の職人たちの魂の結晶そのものでした!(高級品と判明したあとだから言えますが笑)
「三代物」として愛着を深める、長く使える美しい道具との付き合い方
私がこのブログで大切にしている「長く使える美しい道具との付き合い方」という視点から見ても、宮古上布はまさに究極の存在と言えます。
着物の世界で、宮古上布は古くから「三代物(さんだ愛物)」と呼ばれてきました。親から子、子から孫へと、三代にわたって受け継ぎ、100年近くも着続けることができるほど、圧倒的な堅牢さを誇るからです。
そして、宮古上布の本当の美しさは、歳月を重ねることで完成します。 袖を通し、シーズン終わりにお手入れ(洗い張りなど)を繰り返すたびに、当初の硬質な張りは消え、信じられないほどしなやかに、トロリとした極上の肌触りへと変化していくのだとか。

時間をかけて自分だけの極上の風合いへと「道具を育てる」過程は、何にも代えがたい贅沢な悦びです。一見すると贅沢な美術品のようですが、世代を超えて受け継ぎ、日本の厳しい酷暑をこれ以上なく快適に、そして美しく過ごすための相棒となれば、これほどサステナブルで愛おしい衣類はありません。
道具それぞれの個性を知る愉しみ
前回の記事でご紹介した「小千谷縮」は、強い撚りをかけた緯糸(よこいと)を使い、湯もみによって生まれる「シボ(波状の凹凸)」が特徴です。これが肌への接着面を減らし、さらさらとした軽快な涼しさを届けてくれます。
一方で、我が家で隠れていた宮古上布は、極限まで平らにならされた滑らかさと、向こう側が透き通るほどの薄さが特徴。纏った瞬間に、ひんやりとした格調高い涼しさを肌に運んでくれます。
小千谷縮だと思って袖を通していた時もその涼しさに深く感動していましたが、これが宮古島の大地と手技の結晶だと知った今、袖を通すときの愛着と、背筋がすっと伸びるような心地よさは、より一層深いものになりました。
憧れの宮古上布に出会うために
現在、宮古上布は年間の生産数が極めて少なく、「幻の織物」と称されるほど入手困難な逸品です。そのため、新品はもちろんのこと、状態の良いアンティークやリユース品との出会いはまさに一期一会となります。
大人の夏着物の最高峰として、一生モノ、あるいは三代モノとしての特別な出会いを探してみてはいかがでしょうか。
皆様もぜひ、時間をかけて自分だけの風合いに育てていく、美しい布や道具との付き合い方を愉しんでみてくださいね。



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