前回、着物の構造で無駄がないという記事を書きましたが、その特徴をわかりやすく利用している反物を持っていたので調べてみました。この反物、最初に気になったのが布に直接印刷されている小さな記号でした。


これは「柄合わせ印」です。パーツを縫い合わせるとき、この印同士を合わせることで縫い目をまたいで柄がぴったりつながる仕組みになっています。つまりこの反物は、裁断する前から「どこにどの柄が来るか」が計算されている。
これが「絵羽浴衣(えばゆかた)」という反物、仕立て方の特徴です。
普通の浴衣と何が違うのか
普通の浴衣は反物全体に同じ柄が繰り返されています。どこで切っても柄は成立するので、裁断の自由度が高い。これを「追いかけ柄」といいます。
一方、絵羽浴衣は着物の形をした一枚のキャンバスに絵を描くイメージです。裾には裾の柄、袖には袖の柄、と各パーツごとに設計された柄が入っていて、縫い合わせると縫い目をまたいで絵がつながります。

この完成形の写真を見るとわかりやすいです。波と龍の柄が裾・身頃・袖にわたって一枚の絵として成立している。これは反物の段階で柄の位置が全部計算されているからこそできる仕上がりです。
プロダクトデザイナー視点で見ると
この構造、プロダクト設計でいう「アセンブリ設計(組み立てを前提とした設計)」に近いと思っています。
各パーツは独立して染められますが、組み合わさったときに全体として一つの絵になるよう、最初から逆算されている。先ほどの柄合わせ印は、まさにその「組み立て指示書」です。
通常の浴衣が「素材を染めて、切って、縫う」という順番なのに対して、絵羽浴衣は「完成図を先に描いて、パーツに分解して、染めて、縫い合わせる」という逆の発想です。
設計の方向が根本的に違う。
手間とコストがかかる理由
浴衣は8つのパーツで構成されています。絵羽浴衣の場合、パーツごとに専用の染め型が必要です。1色なら8型、2色使いなら16型。その分、価格も製作期間も通常の浴衣とは別次元になります。また各パーツを手縫いで柄を合わせながら縫い上げていくため、職人の技術が直接仕上がりに影響します。
ただし現代では、シルクスクリーンの代わりにデジタルインプリント(インクジェット印刷)を用いた絵羽浴衣も存在します。この場合は「物理的な型」は不要になりますが、デザインのデータ作成や、縫製での柄合わせに高い技術が必要な点は変わりません。。
手元のこの反物も、布に直接印刷された合わせ印を見るだけで、どれだけ精密に設計されているかが伝わってきます。
「着る前から、すでに設計が完成している」という感覚。これが絵羽浴衣の面白さだと思っています。





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